きみの愛なら疑わない
「優磨、美麗を連れて帰るんだ」
「……分かりました」
我に返った優磨くんは美麗さんの肩に手を添える。実の姉よりも浅野さんに従うようだ。
「嫌だ! 慶太と……」
「美麗!!」
浅野さんに一喝されて美麗さんは口を閉ざした。
「帰るんだ」
「…………」
優磨くんに肩を抱かれながら大人しく車まで連れられ、後部座席に乗せられる前に美麗さんは浅野さんを見たけれど、彼は何も言葉を発することはなかった。
優磨くんは美麗さんが座ったのを確認すると振り返った。
「落ち着いたら俺にも全部話してほしいです。身内として、俺にも聞く権利があると思ってます……」
複雑な顔をしてそう言うと運転席に乗って住宅地から去っていった。
残されたのは関係が壊れてしまったばかりの暗い過去を持つ二人だけだ。
「さて……何から聞こうかな」
浅野さんの冷たい言葉に体が硬くなる。
「足立さんはずっと前から僕のことを知ってたの? 会社に入る前から?」
「はい……」
「結婚式に居た?」
「はい……」
「美麗が僕とも付き合って他の男とも付き合ってるのを知ってた?」
「っ……」
「美麗の言ったこと、全部本当のことだと解釈するよ?」
「…………」
「美麗と君のことも、結婚式を壊したことも」
もう逃げられないときがきた。彼に全てを打ち明けなければ。
ぎゅっと両手を握りしめた。
「……はい。全部本当のことです」
悪いことは隠し通すことはできないのだ。
「美麗さんと婚約していたとき、一度だけ私と浅野さんは電話で話したことがありました」
浅野さんは忘れているだろう。美麗さんが私の名前を浅野さんに伝えていたのに、浅野さんは今になるまで気づかなかったのだから。