きみの愛なら疑わない
私と目を合わせない浅野さんはこれまでに何度も見てきた。けれど今ほど悲しいと思ったことはない。
「僕が一番辛いのは君に嘘をつかれたことだ。これじゃ君は美麗と同じだよ」
衝撃を受けた。私が美麗さんと同じだと言うのか。
「僕の過去を知ってることも美麗の友達だってことも全部正直に話してほしかった。その上で僕を好きだと言ってほしかった。なのに結婚式を壊したのが君って笑えないよね」
体から力が抜けていく。立っているのがやっとだ。
「君を最後まで信じてみたかったよ」
その言葉を聞いて目を閉じた。もう涙も出ない。反論もできない。
『信じてみたかった』という言葉には私に希望を持ってくれたのに裏切られた悲痛が込められていた。
「もう私に可能性はないですか?」
「あったとして、君はまだやる気?」
声が呆れている。言外に『可能性はあるわけない』と含まれているような言い方だ。
今からまた駆け引きを始めるにはお互いダメージを受けすぎた。
浅野さんと過ごした時間は幸せだった。もうあの時間が戻らないなんて思いたくない。あなたにもそう思ってもらいたいのに。
腕時計でさり気なく時間を確認する浅野さんに話を終わらせようとする空気を悟った。
「君は本当に僕が好きなんだ?」
血の気が引いた。その質問に答えられないからじゃない。浅野さんの声には感情がこもっていないからだ。
私がどんな答えを言おうと、彼は私の気持ちなんてもう信用するつもりもないのだ。私が『好きです』と言っても信じない。『偽りの気持ちです』と答えればそこで関係は完全終了。ただの先輩後輩、上司と部下に戻るだけ。
あなたに抱き締められて嬉しかった。あの瞬間の喜びは嘘じゃない。