きみの愛なら疑わない
#5 最愛に気づく男
◇◇◇◇◇



何度電話をしても出てくれない。LINEは既読にならない。

週明けに出勤すると浅野さんは新店準備で直行となっていた。先週末まではそんな予定じゃなかったのに、朝早く出社してホワイトボードを書き換えたのだろうか。

「あ、浅野さんは今日遅い時間の戻りだそうです」

今江さんがホワイトボードの前で立ち尽くす私に声をかけてきた。

「そうなんだ……」

「急用なら電話は繋がりますよ?」

「うん……」

その電話は私にだけは出てくれないだろう。

「浅野さん朝出社してたんだ?」

「いえ、電話もらったので私が予定を書き換えました。浅野さんから聞いてませんか?」

「うん……」

「意外です。足立さんは浅野さんの予定を知ってると思ったのに」

「え? そんなことはないけど……」

今江さんは不思議そうな顔を向ける。

「お二人仲良いじゃないですか」

この言葉に返答に詰まる。

今江さんから見ると私たちは『仲が良い』のだ。今ではもう決してそうは見えないだろう。

「仲が良いわけじゃないよ……別部署だし……」

そう言葉を絞り出して今江さんから離れた。
私と浅野さんの仲についての密かな噂は、今の浅野さんにとっては迷惑極まりないかもしれない。





今江さんの言う通り浅野さんが帰社したのは定時を過ぎてからだった。
明日の業務の準備で帰れなかった私は浅野さんが「戻りました」と言ってフロアに入ってきたから顔を上げた。

きちんと話がしたくて話しかけたいのに浅野さんの周りの社員はまだ残業している。
私はとっくに明日の準備が終わって帰っても大丈夫になっても浅野さんはずっとデスクに座っている。

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