きみの愛なら疑わない

「あんなこと?」

浅野さんは私の手を強く引いた。とても弱っているとは思えないほどの力で。胸の上に倒れこむように私の上半身が覆い被さった。

「こんなことだよ」

浅野さんに体が密着する。着ている服の上からでも分かるほど体が熱い。

「本当にこんなことをしたんですか?」

「したよ」

浅野さんは私の腕を掴んだ反対の手で頭を撫でて髪をすいた。頭を少し上げて私の額にキスをした。

「こんなこともしたんですか?」

「そうだよ」

これではまるで付き合っていた頃と変わらない触れ合いだ。

「君の名前を呼んでも反応が薄いから、よく見たら今江さんだったんだ」

意識が朦朧とするとは恐ろしい。

「今江さんも抵抗しなかったからね……あの子も意外と大胆だよ」

「そんなの、抵抗しないに決まってます」

今江さんもその状況を狙って行ったのかもしれないのに。

「浅野さんからも私にこんなことをするんですね」

「…………」

「私の優しさが苦しいなんて言っておきながら、私が来るのを待っていたんですか?」

「消えないんだよ。君のことが頭から離れない」

荒い息と共に苦しそうに言葉を吐き出した。

「君を憎めたらどんなに良かったか……」

「憎まれて当然です……」

ほんの一時の間好かれたことだけでも奇跡だった。

「だめだった……どんな女の子と会っても、足立さんが頭に浮かんじゃう……」

「またセフレと会ってるんですか?」

「僕には軽い付き合いがお似合いなんだよ……」

「バカみたい」

私は浅野さんの胸の上で呟いた。

「浅野さんに本気で思いを寄せる子がいたら、自分とそんな付き合い方をされたら傷つきます。みんながみんな美麗さんのように軽い女だと思わないでください」

「…………」

< 142 / 164 >

この作品をシェア

pagetop