きみの愛なら疑わない
「休んでください。浅野さんが寝るまでいますから」
「……ずっといてよ」
「え?」
「今夜はそばにいて」
珍しく甘えてくる浅野さんのお願いを断ることなんてできそうにない。
「分かりました。お粥か何か作りますか?」
「いらないよ……食欲ないから。足立さんがいてくれたらそれでいい」
素直に甘えてくるなんてやっぱり体調が悪いんだ。
「大丈夫ですよ。浅野さんのそばからずっと離れませんから」
「その言葉を疑ったりはしないよ」
そう言って目を閉じた浅野さんが眠るまでベッドの横に座っていた。掛け布団から出た浅野さんの左手は私の右手を放すことなく、眠るまでずっと握り続けていた。
「私はあなたの前から消えたりしない」
眠る浅野さんに囁いた。
だからもう安心してくださいね。
◇◇◇◇◇
一日だけ会社を休んだ浅野さんはまだ本調子じゃないうちから残業を重ね、咳もくしゃみも治まらないままマスクをして動き回っていた。他の社員も心配になるほど痩せたと言われるけれど、見た目とは逆に明るくなって付き合いやすくなったと評判だ。
「それは美紗ちゃんと付き合うようになったから」
そう潮見や今江さんまで触れ回るようになったから、冷やかされて仕事がやりにくくてしょうがない。
「浅野さんだって否定してないよ」
潮見が食堂で買ってきた唐揚げ弁当を食べながら笑う。
そうなのだ。一番の変化は私たちが付き合っていることを浅野さんは隠していないこと。
「もう今更いいじゃない。だって浅野さんは退職するんだから」
「そうなんだけど……」
浅野さんは明日で退職する。いつかは実家の経営を手伝うつもりだったのを遂に決めたようだ。