きみの愛なら疑わない
「今日はどっちに帰るの? 自宅? それとも浅野さんの家?」
「あ……さのさんの……家です……」
小さく言って照れる私に潮見は更にニヤニヤと笑う。
まだ完全に風邪が治らない浅野さんが心配でマンションに行ったまま泊まることが多くなった。いつの間にか浅野さんの部屋には私の着替えや私物が増えて、半分同棲しているようなものだ。
「美紗ちゃんも寿退社しちゃうの?」
「それはないよ。結婚なんて全然……」
きっと浅野さんは結婚なんて考えていないと思う。慎重になるだろうし、私だって結婚にこだわらなくてもこのままで十分だから。
「そう。まあ美紗ちゃんが辞めちゃったら寂しいからね」
心からそう言ってくれる潮見の存在がありがたい。私だって潮見と離れるのは寂しい。仕事も恋愛も順調で友達がいて、私はこれ以上望む必要はない。
段ボールに囲まれた部屋で主不在のソファーに座って待っていると「ただいま」と玄関から声が聞こえた。
「おかえりなさい」
そう声をかけて立ち上がると鍋を火にかけた。
コートを脱いでカバンを置いた浅野さんはキッチンで夕食の準備をする私の後ろに立った。
「別にいいのに、ご飯なんて作らなくても」
「浅野さんは放っておくとコンビニ弁当かカップラーメンしか食べないからだめです」
「優磨のカフェに行くからいいよ」
「優磨くんがあのお店を辞めても通います?」
「…………」
「引っ越し先からも通います?」
「…………」
私の質問を無視して冷蔵庫から缶ビールを2本出した。テーブルに置いて箸やお皿を出し始める。その様子にこっそりと笑う。彼は言い返すこともしないで、時には私の言うことを聞いてくれるようにもなった。