きみの愛なら疑わない
「美麗さんが眩しくて、私は劣等感を抱えていました」
「皮肉だね。今は美紗ちゃんの方が全てに恵まれてる気がするよ」
「…………」
美麗さんはまたも後ろに下がった。
「ねえ美紗ちゃん、慶太を返して」
「できません……」
「美紗ちゃんは一人でも大丈夫。でも美麗には慶太が必要なの」
美麗さんは真面目な顔をしているけれど目が怖い。
そうしてまた一歩後ろに下がった。ガードレールの切れ間へと徐々に体を移動させている。
「美麗さん?」
嫌な予感がして名を呼んだ。このまま後ろに下がったら道路に出てしまう。
「美紗ちゃん、慶太を返して」
また同じ言葉を繰り返す。
「……で……きません」
「そう……なら美麗は死ぬから」
血の気が引いた。
「美麗さん……何を言ってるの?」
慌て始める私を見て薄っすら笑うとガードレールを越えて道路に出た。
「美麗さん!」
美麗さんのすぐ後ろを車が通過した。後続の車も接触するギリギリになるとクラクションを鳴らして走り過ぎた。
このまま下がり続けたら車とぶつかる。焦った私もゆっくりとガードレールに近づいた。
「美麗が死んだら慶太は美麗のものだよ」
「どういう意味ですか?」
「死んだら慶太は一生忘れない。慶太の心は永遠に美麗のものだよ」
「やめて!」
私の叫びはクラクションにかき消された。
そんなことをしたら浅野さんは一生立ち直れない。
美麗さんはじりじりと道路に足を出していく。複数の車が連続してクラクションを鳴らしては走り去っていく。その様子に私の後ろには何人かが立ち止まって集まってきた。
「美麗さん!」
「もうこれしかないの……」