きみの愛なら疑わない
美麗さんがもう一歩足を後ろに出した瞬間に私も駆けた。花束を左腕で抱え、右手で美麗さんの腕をつかんで引っ張るけれど、足を踏ん張った美麗さんはその場から動かない。
「放して!」
「だめです! 放しません!」
「嫌だ!」
私の腕を振り払って道路の真ん中に飛び出した。
「美麗さん!」
私も焦って飛び出した。
花束を放り投げ、両腕を美麗さんの腰に回して引っ張った。左足を軸に体を捻って美麗さんをガードレールまで投げるように振り回し腕を放すと、美麗さんは歩道のそばに転がり手をついて倒れた。
私も歩道に戻ろうとした瞬間に顔にライトが当たるのを感じ、クラクションが至近距離で聞こえた。避けようとしたときにはもう遅く、車は目の前に迫ってきた。走っても間に合わない。
私は地面を蹴った。足に衝撃を受けたのと同時に美麗さんの前に転がった。激痛を感じて意識が薄れていく。目を閉じる前に地面に落ちた花束の鮮やかな黄色やオレンジが目に焼き付いて、そのまま意識を失った。
◇◇◇◇◇
体に重みを感じて目が覚めると真っ白な天井が見えた。
「足立さん!?」
すぐ耳元で聞こえた声に頭を動かした。
「足立さん! よかった……」
「美紗さん!?」
「あの……ここは?」
自分の口から出た声が掠れて弱っていることに驚く。
「っ!」
体を動かそうとするとあちこちが痛み、左足は特に痛んだ。
顔に違和感があり手で触るとガーゼのようなものが貼られていた。
「わたし……どうして?」
私の胸の上からぎゅうぎゅうと抱き締めてくるのは浅野さんだ。
「慶太さん、そんなに締めたら美紗さんがまた気を失っちゃうから」
優磨くんが横に立って私に抱きつく浅野さんを見下ろして呆れている。