きみの愛なら疑わない
「美麗さんの幸せを願っています」
どうかドアの向こうのお嬢様が心から笑える日がきますように。
ドアから離れて帰ろうとする私に「美紗ちゃん、ごめんなさい……ありがとう」とその小さな声は確かに聞こえた。
門まで優磨くんが見送ってくれた。
「わざわざすみませんでした」
「こちらこそありがとう」
始終申し訳なさそうな顔をしていた優磨くんに私も浅野さんも笑顔を見せる。
「今日はいいきっかけになったの」
これでやっと私も浅野さんも前に進めるのだ。
「それは俺も同じです。いっそう城藤家で力を得ようって決めました。姉のためにも」
城藤一族の中で美麗さんの立場は危ういものになってしまう。結婚式をぶち壊して男に捨てられ、心を病んだ哀れなご令嬢。今の彼女は城藤に見捨てられたら生きていくことは出来ないだろう。
「確実な権力を手に入れて姉を守りますから」
「権力って、優磨が言うと恐ろしく聞こえるね」
「どういう意味ですかそれ。慶太さんもぼやぼやしてると大事なものを奪われちゃいますよ」
その言葉に浅野さんは無表情のまま私と優磨くんの間に一歩割って入った。
「そうそう、そうやって守ってくださいね」
ニコニコと笑う優磨くんとは反対に浅野さんはむすっとしている。
「前から思ってたんだけど優磨くんって美麗さんとは似てないよね。家族なのに」
「そうですか? そっくりですよ。欲しいものを手に入れるためには手段を選ばないところとか。姉と違って頭を使いますけどね。例えばもし美紗さんを振り向かせるとしたら下心を隠しつつ、とにかく優しく誠実に手に入れ……」
「もういい足立さん帰るよ」
「えっ浅野さん……」
浅野さんは優磨くんの話を遮って私の手を引くと強引に車の助手席に押し込んだ。