きみの愛なら疑わない
「慶太さん、焦ると隙を突かれますからね」
「うるさいよ優磨」
浅野さんは運転席に乗ってシートベルトを締めると車を発進させた。
「じゃあね優磨くん」
「はい、また」
窓を開け優磨くんに手を振って城藤邸を後にした。
しばらく走っても浅野さんはずっと無言だった。
「浅野さん、これからどうしますか?」
この後の予定は何も決まっていない。このままどこか食事に行くのかと思ったけれど、浅野さんは何も言おうとしない。少し考え事をしているようなので私もそれ以上何も言わないまま窓から外を眺めていた。
「着いたよ」
「え、ここ?」
海沿いを車で走ってきたけれどいつの間にか森に入り、丘を登って着いたここは花畑に囲まれたレストランのようだ。
駐車場に車を止めると浅野さんはシートベルトを外して先に降り、助手席に回ってドアを開けてくれた。私も車から降りた瞬間、風が吹いて髪も花もふわりと揺れた。
「ここで食事ですか?」
「うん。でもそれは後」
浅野さんは私に向かって手を伸ばしたから、その手の上に私の手を重ねた。
支えられながらレストランの横を抜けて、奥へと続く道を進むと白い建物が見えてきた。白レンガの壁の上にはアーチ状に模られたガラスの屋根がある。建物の扉の左右には高さのある細い台座が置かれ、白い花の茎が絡みつくように飾られている。
「わぁ、可愛い……」
思わず呟いた。建物の更に奥には噴水が設置されている。噴水の回りにも花が飾られ、浅野さんと二人だけのこの場所はまるで違う世界にいるようだ。
「気に入った?」
「はい、とても」
私は浅野さんから離れて白い建物の前に立った。現実離れしたここにいると、まるで自分がお姫様にでもなったようだ。