きみの愛なら疑わない
「じゃあここにしよう」
浅野さんの言葉に振り向いた。
「足立さん、ここで結婚式をしよう」
「え?」
「ここはチャペルなんだ。さっきのレストランは披露宴に使えるんだよ」
「え……え?」
戸惑う私は言葉に詰まる。
浅野さんはゆっくりと私に近づいた。
「足立さん、結婚しよう」
突然でもその言葉ははっきりと聞こえた。そうしてジワジワと目が潤んできた。
過去に傷を負った浅野さんから結婚なんて言葉が聞けると思っていなかった。
期待しなかったわけじゃない。ずっと望んでいた。でももっと時間がかかると思っていた。
「君とずっと一緒に生きていきたいから」
「っ……」
顔を手で覆った。涙が止まらない。きっとメイクが落ちて酷い顔になっているだろう。
「君がそばにいてくれたら、僕はそれだけで幸せだよ」
私の体が浅野さんの腕に包まれた。
「愛してる。僕と結婚してください」
「はい……お願いします……」
嗚咽しながら出した返事に浅野さんが耳元でふっと笑う。頬を私の頬にすりつけたのを合図に顔を動かして、二人の唇と唇を重ねた。
◇◇◇◇◇
「よし! これで全部ですよ」
リビングの隅に段ボールを置いた優磨くんに「ありがとう」と声をかけて、コーヒーを入れたカップをテーブルに並べた。
「優磨くんどうぞ」
「ありがとうございます」
イスに座った優磨くんの向かいに私も座ると軽く部屋を見回した。
今日からこの部屋が私の新しい家になる。元から置いてあった浅野さんの家具や私物の横に私の荷物が加わる。
浅野さんは城藤家に与えられたマンションから引っ越し、実家近くのこのマンションに引っ越した。
以前よりも狭くて古いけれど住み心地は悪くない。私と二人での生活を始めるのにも十分だ。