きみの愛なら疑わない
玄関のドアが開く音がしてリビングに浅野さんが入ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「おかえり慶太さん」
「なんで僕より先に美紗と座ってるんだよ」
浅野さんはテーブルに向かい合って座る私と優磨くんに不快な顔を見せた。
「いいじゃないですか。これから二人で食卓を囲む機会はいっぱいあるんだから俺が一回くらい座っても」
「そもそも今日も僕が運ぶからいいって言ったのに」
「お忙しい社長の手を煩わせないように引っ越しのお手伝いですよ」
『社長』の言葉に浅野さんの眉がぴくりと動いた。何よりもそう言われるのを嫌うから。その気持ちを察したのか優磨くんは「新婚さんの邪魔をしちゃいけないから帰りますね」と言って立ち上がった。
「もう? ご飯食べていけば?」
私がそう言ったのだけど優磨くんは「いえ、ご主人が不快感を露にしてるので帰ります」と笑顔で答えた。見ると浅野さんは分かりやすく不機嫌な顔をしていた。
「でも遠いところから来てもらったのに……」
私の実家とこのマンションは車で2時間近くかかった。優磨くんはわざわざ車を出して引っ越しを手伝ってくれたのだ。
「いいえ、平気ですよ。俺に嫉妬して邪険にする慶太さんを見るのは楽しいですから」
「早く帰りなよ御曹司様」
「はいはい」
優磨くんはパーカーを着ると玄関まで移動した。
「今日は本当にありがとう」
「いいえー楽しかったですよ、美紗さんとのドライブ」
優磨くんは私の後ろに立つ浅野さんの顔を見ると口を噤んで帰っていった。
玄関のドアが閉まった途端、浅野さんが私を後ろから抱きしめてきた。
「ごめんね、手伝えなくて」
「いいんですよ。お仕事お疲れ様です」
浅野さんは私の髪に、そして首にキスをし始める。