きみの愛なら疑わない

後ろから3番目の席に座っている私は始終振り返ってはチャペルの扉が開かれるのを待っていた。その度に後ろに座る参列者と目が合ってしまい、不審な顔をされた。

「誓いのキスを」

神父の言葉に祭壇の2人が見つめ合い、新郎が新婦の手を取った。

早く……早く……!

2人の唇が交わろうとした瞬間に背後の扉がキイィという大きな音を立て勢いよく開いた。

「待てよ!!」

男性の怒鳴り声が静かなチャペルに響いた。全員が一斉に振り返ってドアを凝視した。私はこの瞬間を待っていた。

ドアの前には結婚式に相応しくないジーンズによれよれのシャツを着た男性が立っている。乱入したその男性は真っ直ぐ前だけを目指してバージンロードを駆けた。
呆然としている参列者の間を抜けて、同じく呆然としている新郎新婦の元へと。
突然の乱入者にスタッフも含めたチャペルにいる全員がその場を動けない。

「美麗!」

祭壇の前で足を止めた男性が新婦の名を叫んだ。

「俺を選んでよ美麗! 必ず幸せにするから!」

その瞬間止まった時間が動き出したかのように、新婦は新郎の手を振りほどき男性の元へと駆け寄った。そうして2人でバージンロードを出口に向かって駆けだした。

願い通りの新婦の行動に私の気持ちは昂った。男性が結婚式に乱入して新婦を攫うシチュエーションを今か今かと待ち望んでいたから。

秘密を抱えた新婦は結局嘘をつき続けることよりも逃げることを選んだのだ。ギリギリで現れた男が新婦の気持ちを後押ししたのだ。

新婦に振りほどかれた新郎の手は上がったまま、扉まで逃げるように駆ける男性と新婦を驚いた顔で見ていた。

2人が私の横を駆ける瞬間新婦と目が合った。その目は潤み、困惑しているようにも読み取れた。対して私は驚くことも悲しむこともしない、心から祝福する笑顔を向ける。

ふわりと舞った新婦のドレスの裾が私の膝を掠めた。手を伸ばせば阻止できそうなほどの距離だったけれど、私は2人を止めたりしない。彼女の秘密を打ち明けられ、望んでもいないのに罪を共有するはめになった。だから私は罪を放棄したいと願った。

これで彼女は絵に描いたような人生から転落するかもしれない。でもそれは彼女の自業自得で、自分自身で選んだことだ。私は最初からこの結婚には反対だったのだから。

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