きみの愛なら疑わない
「ねえ優磨くん……」
「あ、ココア飛んだ!」
またも私の質問は遮られた。
スチームでココアを温めていた優磨くんのエプロンにココアが飛んで大きな声が出た。
「優磨、お客様がいるんだから」
「すいません……」
何度も店長に怒られた優磨くんは焦っている。
「あーあ……洗ったばっかなのに……」
タオルでエプロンをトントンとたたく優磨くんの胸に付いた名札に目がいった。そして『しろふじ』と書かれた名前に息を呑んだ。
しろ…ふじ?
「ねえ優磨くん」
「はい」
優磨くんはエプロンを拭きながら返事をした。
「優磨くんの名字ってどんな字を書くの?」
名札はひらがなで書かれている。もし私の思う『しろふじ』だったなら……。
「お城の城に草冠の藤で城藤です。藤は加藤とか佐藤と同じ字の」
ああ、やっぱり……。
「そっか……そうなんだ……」
「名前がどうかしました?」
「いや、あの大手企業の城藤と同じ名前だから……」
「えっと……そうなんです。実は……」
優磨くんはカウンター越しに私に顔を近づけた。
「俺の実家は城藤のグループの一つなんです。父が会社を経営しています」
まさかこんな偶然が起こるなんて……。
「みんな意外と気づかないんです。その事を言われたのは足立さんだけですよ」
手が小刻みに震えた。過去の罪は私をいつまでも縛りつける。
「このカフェの人には内緒でお願いします。御曹司様、なんて言われかねないんで。ここのスタッフすぐにからかうんですよ」
「浅野さんは知ってるの?」
「俺の実家のことですか? はい、知ってますよ。慶太さんも家に来てくれたことがありますから」
城藤優磨。よく見ると顔があの人と似ていなくもない。この子が本当にあの城藤家の人間だとして、もしもあの人に近い親族なら、今でも浅野さんのこんな近くにいるなんて……。
私はゆっくりと雑誌を閉じた。
「もう帰るね」
「え? またですか?」