きみの愛なら疑わない
優磨くんはびっくりして私を見た。何度も慌てて帰る変な女だと思ったかもしれない。でも名字が城藤だと知ってしまった以上、私は急いで確認しなければ。
「ごめんね」
出されたコーヒーを味わうことなく急いで飲んだ。まだ熱いコーヒーで舌を火傷したけれど、そんなことを気にしていられない。
「あの、足立さん……また来てくれますか?」
優磨くんの目は不安からか少しだけ赤い。私の答えに緊張しているようだ。
「うん……また時間ができたらね」
私がそう言うと優磨くんは嬉しそうに笑う。もし尻尾があったとしたら左右に揺れるのではないかと思うほど。
本当にまたここに来るかは優磨くんの家族を確かめてから、だとは本人には言えない。
「じゃあね」
ラックに雑誌を戻すと出口を向いた。
「ありがとうございました」
無邪気な声が私の背中に突き刺さった。
自宅のドアを開けると靴を脱いで一直線に自分の部屋に入った。
「おかえりー」
キッチンから母の声が聞こえたけれど返事をする余裕もない。
子供の頃から今でも置いてある学習机の引き出しを開けて、奥からあるものを取り出した。私を悩ませるあの時の披露宴の席次表だ。
『寿』と書かれた台紙をゆっくりめくると、新郎新婦の写真とプロフィールが載っている。今よりも少し若い浅野さんの顔写真。その右には新婦の顔写真がある。この数年忘れたくても忘れられない顔。
さらにめくって『城藤優磨』の名前を探した。そうして見つけた。『新婦弟 城藤優磨』の文字を。何度も何度も繰り返し目で見て指でなぞる。
優磨くんが弟だなんて……。
当時は優磨くんが弟だなんて知らなかったし顔も覚えていなかった。改めて見た数年前の新婦の写真と優磨くんはよく似ている。
『俺もこのバンドは嫌いです』
そう言った理由は言われなくても理解した。
もう私は浅野さんどころか優磨くんにさえも後ろめたさを感じる。浅野さんを幸せにしたいと決めた気持ちが、美麗さんの弟との接近で揺らぐ。
私があの結婚をぶち壊した隠れた一人であるといつかバレてしまいそうで怖い。
過去はいつまでも私に付き纏い、解放してはくれないのだ。