きみの愛なら疑わない

「目の前に具合の悪い人がいたら助けるのが普通でしょ?」

「…………」

間抜けな顔でまじまじと見られることが苦痛になってきた。それに吐瀉物のにおいがきつい。

「あなたのお友達の方がよっぽどお金目当てですよ。その割に今のあなたを見て逃げていきましたけどね」

このバカ女に嫌みを込めて言ってやる。本当は私だってこの状況から逃げたいのに放っておけなかった。

「……ありがとう」

「……どういたしまして」

お礼を言われるなんて予想外だ。思考がぶっ飛んだ女だと思っていたのに、そこは育ちのせいかきちんと礼は言えるようだ。

「お水持ってきますね。それとタオルも……」

立ち上がるとバーの中からスタッフの女性が出てきた。スタッフはうずくまる美麗とその吐瀉物を見て顔をしかめた。

「お水とタオルをお願いします」

「は、はい」

私の指示を聞くとスタッフは中に戻っていった。

「あなたのお友達は自分で介抱するよりもお店の人に任せることにしたんですね」

私は疲れていた。この惨めなご令嬢に当たりたくなるほどに。

「とっても素敵なお友達をお持ちなんですね」

今のこの人に何を言っても怖くない。どうせ私のことなんてこの吐き出したものと同じ程度にしか思っていないだろうし。
介抱してあげたのだからあとはスタッフと素敵なお友達が何とかするだろう。

「じゃあ今夜は楽しいパーティーを開催してくださってありがとうございました」

もう帰ろう。服ににおいがつく前に。まったく、散々な夜だ。

「あなたの名前は?」

「足立です」

フルネームは名乗らない。万が一生意気な口を聞いた仕返しをされたら堪らない。

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