きみの愛なら疑わない
煮物を作ると言って一緒に買い物に行ったスーパーで野菜の質も値段も見ないで手当たり次第に買おうとする美麗さんに「君は世間知らずなのか?」と男は言ったのだそうだ。
お嬢様の美麗さんが服以外の買い物をまともにできるわけがない。
肩書きも環境も関係なく本音を言う男に美麗さんは依存した。
美麗さんに遠慮せず本音を言う同性の私と同じだけ、気を遣わず接する慶太にどんどん夢中になっていった。
美麗さんが慶太と呼ぶその男には会ったことがない。一度美麗さんと別れた後に迎えに来たところを見ただけだ。
別れた道路の向こうに止められた車から出てきた慶太は美麗さんと並ぶと『普通』だった。
背はヒールを履いた美麗さんの方が高くなってしまうし、車だって高級車などではなく街に溶け込む普通の乗用車。量販店で揃えたような服を着ている。
イケメンと呼ばれる方だと思うけれど美麗さんとは釣り合わない。そんな印象を受けた。
彼だって美麗さんとは違う世界、私のいる『こちら側』の人間だ。
今まで似たような男が美麗さんに近づいてこなかったわけじゃない。それでも慶太が他の男と違うのは美麗さんを『城藤』の人間ではなく一人の女性として接しているから。
美麗さんに本音でぶつかり、ワガママも全て包み込むような優しい笑顔を向けるから慶太は美麗さんを落とせたのだ。
誠実で、美麗さんを大事にしている。
城藤の財力を狙っての演技かもしれないけれど、少なくとも慶太は他の男よりは美麗さんを理解している。
美麗さんを通して聞いた慶太の印象は私にとっても好ましいものだった。
道路を挟んで距離が離れていても私からは彼の笑顔が目に焼きついた。彼のような男に触れられて、彼のような男のそばに居られる美麗さんが羨ましかった。