きみの愛なら疑わない
美麗さんは笑うけれど、私が言ったことは冗談ではない。
今まではどうでもいと思っていた美麗さんの結婚にだんだん反対するようになった。
大学卒業と同時に行う式の準備が順調に進んでいた頃、美麗さんの態度に疑問を抱くようになったからだ。
あれだけ大好きだと言っていた慶太の話がいつの間にか減っていき、結婚式のことをどうでもいいという態度になった。そして何よりも、関係を疑う男の存在があったから。
その事を直球で指摘した私に美麗さんはあっさりと白状した。「ちょっと他の男と遊んでみたくなった」と。
KILIN-ERRORというバンドでボーカルをやっている男と信じられないことにいつの間にかできていた。美麗さんが出入りするライブハウスで知り合ったようだ。
私をボーカルの匠に紹介したいとライブハウスや駅前の路上ライブに何度も連れていって当たり前のように他のメンバーまで紹介された。
「慶太は美麗さんが真面目に大学に行ってるって思ってるんですよね? こんなところにいていいんですか?」
「大丈夫。匠と遊ぶのはほんの息抜きだから」
駅前で熱唱する匠という男は、慶太に比べたら更に平凡だった。
ライブがないときは何をしているのか分からない、職に就いているのかも分からない男だ。
年は美麗さんや私と同じくらいだけど慶太と比べるとあらゆる面で見劣りする。その平凡男を見つめる美麗さんは満足そうな顔をしている。それは結婚を控えた女の顔ではなかった。
「美麗のために歌を作ってくれたの」
曲作りも担当している匠は美麗さんに捧げる歌を作り、ライブで披露しているのだ。
今匠が抱えて弾いているギターは美麗さんが買い与えたものだ。ギターだけではない。恐らく他のメンバーのベースやキーボードだってそうだ。最初に見たときよりも新しくなっている。