きみの愛なら疑わない
このバンドのメンバー全員が美麗さんのステータスにすがっている。
「このバンド絶対に売れると思わない?」
私の横に並んで立つ美麗さんはキラキラした目で匠を見ている。
風が吹いてなびいた長い髪の隙間から首に赤いアザがあるのが見えた。『ほんの息抜き』で婚約者以外の男と寝るなんて、美麗さんはそこまで貞操のない女なのかと驚いた。慶太が大好きだと言っていたではないか。
「美麗さん……あの……」
「匠には美麗がこんな風に感じるんだって。照れるよね」
匠の口ずさむ言葉は美麗さんへの想いが溢れていた。好きな女が自分を好いてくれたことは奇跡だという歌詞に私は吐き気を覚えた。
慶太は美麗さんの浮気に気づいているのだろうか。そうじゃなくても美麗さんと結婚して本当にいいのだろうか。世間知らずで料理も出来ないし、ワガママで慶太以外の男とセックスする女なのに。
でもそれは美麗さんだけが悪いわけじゃない。世の中を知らずに育てられてまともな生き方ができるわけがない。
『友人』も『使用人』も『浮気相手』もみんな美麗さんのご機嫌をとって背後の城藤を利用している。
美麗さんは可哀想な女だった。そしてそんな女と行動を共にしている私も同じレベルなのかもしれない。