きみの愛なら疑わない
あの日以来新郎、浅野慶太の顔が目に焼きついて離れない。魂が抜けた屍のような顔。泣いてこそいないけれど、不安と悲しみに潰されすぎて涙も出ないほどぺっちゃんこになった心。
数メートル離れた祭壇にいる浅野さんの姿が今でも私を苦しめる。苦しめたのは私の方なのに、浅野さんの人生を壊した代償は想像よりもずっと辛かった。
あれから何回か親戚や友人の結婚式に招待してもらったけれど、新婦、或いは新郎が式の途中で消えてしまうのではないかと毎回ビクビクしていなければならなくなった。それほどに、幸せな新郎新婦の姿は繰り返し私に罪を突きつけた。
大学を卒業して株式会社早峰フーズに就職した私は浅野慶太と再会するなんて思いもしなかった。配属されたレストラン事業部に当時主任として浅野さんは勤務していた。ほぼ毎日顔を合わせるほどの距離に動揺した。
大混乱の結婚式当時よりは痩せてメガネをかけ始めたようだけど、時折見せる悲しげな表情はあの時と変わっていなかった。
結婚式から4年もたっているのに忘れることができないほど浅野さんに負い目がある。
まさかこんな形で再会するとは思わなかった。まるでいつまでも罪を忘れるなと言うかのように……。
それなのに浅野さんは私のことなど気づかないようで、ただの新入社員として接していた。他の社員と同じように指導して、他の社員と同じように怒られた。
浅野さんは仕事を完璧にこなす人だった。まだ入社歴が浅いのに重要な店舗を任されることもある『できる先輩』。
二十代後半なのに入社4年なのは中途採用だからだと聞いた。つまり浅野さんは結婚が破談になってから転職したようだ。
結婚式には職場の同僚も招かれていたはず。めちゃくちゃな式になっては当時の職場にも居づらくなっただろう。その事実が更に私を苦しめた。