きみの愛なら疑わない

「慶太さんに申し訳なくて。俺と会う度に姉を思い出すんじゃないかと思って離れようとしたんですけど、優磨が悪いわけじゃないからって言って今でも俺と会ってくれるんです」

浅野さんらしい。優磨くんを大事に思っているんだろう。

「姉が許せません。慶太さんを裏切ったこと」

許せない。
優磨くんの口からそう言われて私は罪の重さに息苦しくなる。

「そうだね……酷いね」

本当に、酷いことをした。そして優磨くんは浅野さんが傷ついた原因は自分にもあると思っている。

暫くお互い無言で歩いていた。優磨くんは感傷に浸って、私は過去の罪を重く受け止めていた。

今更私にできることはなんだろう。傷つけて苦しめたこと、どうすれば償えるのだろう。この二人の近くに居続けて本当にいいのだろうか。

もうすぐマンションが見えてくるというところで優磨くんが口を開いた。

「城藤家に生まれるとある程度人生が決まってしまうんです。学校や職場、結婚相手まで決められてしまいます」

美麗さんも初めはお見合いの話があった。城藤の利益のため、会社同士の結び付きのための。

『美紗ちゃんは不自由だって感じたことある?』

いつだか美麗さんに聞かれたことがあった。美麗さんは好き勝手にやっているように見えて、本当は窮屈な世界で生きていたのかもしれない。

「でも姉は親の決めた相手ではなく慶太さんと結婚すると公言しました。親に逆らって今までの生活が変わってしまうとしても慶太さんを選んだんです」

美麗さん本人からは浅野さんと結婚できないのなら死ぬとまで騒いだと聞いた。本気で死ぬつもりはなかったとしても意志を通せるところまでは抵抗したのだ。

< 73 / 164 >

この作品をシェア

pagetop