きみの愛なら疑わない
「ごめんなさい……」
「謝らないでください。フラれるって分かってたんですから。少しだけ悪足掻きしてみました」
申し訳なくて優磨くんの顔が見られない。
「嬉しいです。慶太さんを好きになってくれて」
「え?」
「姉と別れてからの慶太さんはボロボロでした。今は立ち直ったように見えても前とは違う。女性に対して特に冷たくなりました」
優磨くんも気づいていた。浅野さんの変化に。
「慶太さんは俺には言ってくれないけど、褒めらるようなことはしてないと思うんです。前に女の人と電話しているところを聞いちゃって……」
「うん……浅野さんは今自分も女性も傷つけるようなことをしているかも……」
「だからそんな状態の慶太さんを好きになってくれてありがとうございます」
今にも泣きそうに目の周りを赤くして私にお礼を言う。こんな素敵な男の子の気持ちに応えられないことが申し訳ない。
「慶太さんは手強いでしょうけど、俺応援します!」
最後は笑顔で私を励ましてくれる。私はこの子に優しさをもらっていい人間じゃない。どうやったら償えるのだろう。
「あの、足立さんの下の名前って何ていうんですか?」
「美紗だよ」
正直に言ってからしまったと口を手で軽く押さえた。美麗さんの結婚式に私がいたって知られないように、万が一を考えて細かい情報は教えない方がよかったかもしれないのに。
「美紗……か……」
優磨くんは少し考えてから「美紗さんって呼んでいいですか?」と言った。
「あ、うん……いいよ」
「ありがとうございます!」
私の名を知れたこと、それだけのことで嬉しそうに笑う。
「美紗さん、映画は一緒に行きませんか?」
「映画?」
「あの恋愛映画は観たいんです。でも慶太さんはああいうの嫌いで一緒に行ってくれないんです。男友達と見に行く映画でもないし。それとも俺とはもう会ってくれません?」
一転して不安そうな顔になる優磨くんに今度は私が笑顔を見せた。
「もちろん、一緒に行こう」
「やった!」
「送ってくれてありがとう」
「はい。おやすみなさい」
優磨くんは私がマンションの中に入るまで手を振っていてくれた。私の心にほんの少しの罪悪感が残った。