きみの愛なら疑わない

「でも匠は今の美麗を受け止めてくれるの。ただ一緒にいてくれる。それがすごく安心するの。匠ね、美麗がいないと何も出来ないくらい愛してるって言ってくれたの」

「はあぁ……」

私は盛大な溜め息をついた。本当に呆れるばかりだ。

「どっちとも一緒に居たらだめなのかな?」

「だめですよ。美麗さん、それって最低ですよ。今すぐやめた方がいい」

「だってー……どっちも美麗には必要な人なんだもん……どっちかを選んだら他の男と付き合っちゃいけないなんて美麗には無理」

このご令嬢は考え方が根本的に私と違う。いくら美麗さんが本音を言うことを私に求めているとしても、私の言葉が常に美麗さんに届くとは限らない。

「美麗さんが幸せになるためにはどうすればいいのか、その選択を間違えないようによく考えてくださいね」

「うん……」

考えなくても結論はすぐに出る。
慶太との結婚には反対だけど、今更なかったことには出来ない。たくさんの人を傷つけてしまう。

城藤家の人間の結婚式は盛大なものになる。招待客の数も並みの式の比ではない。これが数週間後に迫っているのに今更中止になると、城藤側だって美麗さんだけの責任では済まない。だけどこのご令嬢はそんなことをきっと深く考えてはいない。

慶太といるか匠といるか、どちらが美麗さんにとって楽しく生活できるか、どっちが美麗さんを愛してくれているか、体の相性はどっちがいいか、そんなことしか考えていないのだろう。

美麗さんは全てを持っている。手に入れられないものなどない。何かを手に入れるために何を犠牲にしてもきっと気にしたりはしない。もしかしたら全部を上手く手にできるとさえ思っているかもしれない。





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