きみの愛なら疑わない
美麗さんがお風呂に入っているとき、美麗さんのスマートフォンが狭い部屋に鳴り響き着信があることを知らせる。
画面には『けいた』と表示されている。ひらがなで登録された名前に美麗さんらしさを感じながらスマートフォンをバスルームまで持っていってドアの前で声をかけた。
「美麗さん、慶太から電話です」
ドアが少しだけ開いて髪を泡だらけにした美麗さんが顔を出した。
「今出られないから美紗ちゃん代わりに出て」
「え!? 私がですか?」
「緊急だったら困るし、今髪を流したいから」
「分かりました……」
美麗さんがドアを閉めてしまったので仕方なく緊張しながらも電話に応じた。
「も、もしもし……」
「あれ、美麗?」
初めて聞いた慶太の声は想像よりも少し幼く聞こえて、より一層緊張してきた。慶太を身近に感じた瞬間だった。
「あの、えっと……」
「美麗……じゃないの?」
一方の慶太は私の声に戸惑っているようだ。
「あ、あの、私美麗さんの友達です。今美麗さんはお風呂に入ってます……」
早口で状況を伝える。そうして「私の家です」と慌てて付け足した。
「ああ、美麗の友達の、ミサちゃんかな?」
「はい、そうです……」
「美麗から聞いてるよ。いつも相談に乗ってくれる大学の後輩がいるって」
慶太の口から自分の名前が出てドキッとする。美麗さんは私のことも慶太に話しているなんて意外だった。
「急用じゃないから明日またかけ直すよ」
「すみません……」
「ミサちゃんは結婚式に来てくれるのかな?」
「はい……」
「そっか。ありがとう。当日はよろしくね」
穏やかな慶太の声に全てを暴露してしまいたい衝動にかられた。けれどそんなことはできない。私が泥沼化の引き金にはなりたくない。