きみの愛なら疑わない

そんなことを微かに思いながら美麗さんが髪を乾かし終わるまで眺めていた。

「そうそう美麗さん、匠にはちゃんと別れると言ってくださいね」

これが重要なのだ。匠との仲を綺麗にしないと進めない。

「……うん」

美麗さんの歯切れ悪い返事はやはり信用できないなと思えた。
匠がはっきりしなければこの人は結局二股のまま生きていくのだ。一度匠を説得するしかない。

私がここまでやるのは美麗さんのためじゃない。慶太を傷つけないためなのだから。



◇◇◇◇◇



美麗さんと会う約束をしていたのに彼女は体調が悪いからと待ち合わせの時間に遅れていた。遅刻するのはいつものことだけど、最近の美麗さんは食欲もなく、吐き気を訴えることが多かった。
ストレスが溜まっているからだと不満を言う美麗さんに病院に行けと言ったけれど、そのせいで待ち合わせに遅れているのだとしたらいい迷惑だ。

文句を言って軽蔑しつつもいつまでも美麗さんとつるんでいる私はもう彼女のペースに巻き込まれている。

待ち合わせ場所のロータリー横の広場には既にKILIN-ERRORのメンバーが楽器の準備を始めていた。もし匠から美麗さんを説得してもらうとしたらチャンスは今しかない。私はペットボトルの水を飲んでいる匠に近づいた。

「こんばんは匠さん」

「ああ美紗ちゃん、先に来たの?」

「ちょっと匠さんにお話しがあって」

「何?」

匠はペットボトルを植え込みの端に置くと折りたたみ式のイスに座るように私に勧めた。

「単刀直入に言うと、美麗さんと別れて欲しいんです」

「…………」

予想外の話だったのだろう、匠は固まった。

「美麗さんがもうすぐ結婚するのはご存知ですよね? 美麗さんのためにも相手の方のためにも、匠さんから引いて欲しいんです」

< 82 / 164 >

この作品をシェア

pagetop