きみの愛なら疑わない
「何を……言ってるんですか?」
美麗さんの願望に失望する。
匠の子だ。私だって慶太との子供だと信じたい。でもきっとそうじゃない。
怒りで泣きそうになるのを堪えた。私の言葉が美麗さんに届かなくて悔しい。
「匠の子だったら? 誰も幸せになれませんよ?」
「お腹の子には父親が必要でしょ……慶太なら完璧なの」
「美麗さん!!」
喉に痛みが走るほど声を張り上げた。
ここまで最低な人間だと思わなかった。ワガママでも滅茶苦茶でも純粋な人なんだと思ったことがあったのに。
この人はどう説得してももう答えを決めていたようなものだ。今夜ここに来たのも匠にどっちかを選べと言われたことが悲しかったからで、私に答えを求めに来たわけじゃない。
涙で美麗さんの顔がぼやける。私も今ぐしゃぐしゃな顔をしているのだろう。
「美麗さんが決めたなら、もう私が言うことはありません」
静かに告げた。
美麗さん自身も気づいているのだ。子供の父親はどっちなのか。それをはっきりさせることから逃げている。
結婚すると決めたならどうしようもない。慶太の人生は美麗さん次第だ。
そうして嫌な考えが頭に浮かんでしまった。
美麗さんのすすり泣く声をぼんやり聞きながら私はどうやって結婚をやめさせようか考えていた。
お腹の子には父親が必要だ。血の繋がった父親が。
美麗さんは泣き疲れたのだろう。私のベッドを占領して寝てしまった。
つわりで気持ち悪いと訴えながらも冷蔵庫から勝手に炭酸飲料のペットボトルを出して一気飲みしてから。
私の家に泊まることは珍しくないけれど、きっと今夜が最後になるだろう。綺麗な寝顔を見ることもこれが最後だ。