きみの愛なら疑わない
#4 二度裏切られる男
◇◇◇◇◇
社員がまばらな午後のフロアに電話が鳴る音が響く。レストラン事業部は店舗管理課の社員はほとんど電話を取らず、企画管理課の社員が電話応対することが暗黙の了解になっている。私はいつものように受話器を持って応答ボタンを押した。
「早峰フーズ、レストラン事業部でございます」
「店舗管理課の浅野です」
「お疲れ様です……」
まともに話をしたのは何日振りだろう。浅野さんの頬を平手で叩いたことすら謝罪していないままだ。
「足立さん……かな?」
「そうです……」
受話器を通して聞く彼の声はいつもより少しだけ幼くて優しく聞こえる。この声の主と先日私にセフレになってもいいと言った人が同じ人物とは思えない。
「ホワイトボードの僕の帰社予定が16時になってると思うんだけど、予定が変わって18時になるから」
「そうですか。じゃあ書き換えておきます」
「よろしく」
「それでは……」
「足立さん」
電話を切ろうとした私を浅野さんは止めた。
「優磨とは……」
「…………」
「…………」
言いかけて浅野さんは黙ってしまった。
私は優磨くんに告白されたことも、その気持ちに応えられなかったことも、もちろん浅野さんには伝えていない。優磨くんが浅野さんにどう言ったのかは把握していないけれど、きっと大体のことは知っているのかもしれない。
「仕事中なのでプライベートな話はまたの機会にお願いします」
「…………」
「他に何もないようなら切りますね。失礼します」
私は浅野さんの返事を待たずに受話器を強めに置いた。
我ながら冷たい対応だとは自覚している。けれど今浅野さんにどう接していいのか分からない。
立ち上がってホワイトボードの前に行くと浅野さんの名前の下の『16時』を消して『18時』と書いた。そして振り返ると私をじっと見つめる今江さんと目が合った。
社員がまばらな午後のフロアに電話が鳴る音が響く。レストラン事業部は店舗管理課の社員はほとんど電話を取らず、企画管理課の社員が電話応対することが暗黙の了解になっている。私はいつものように受話器を持って応答ボタンを押した。
「早峰フーズ、レストラン事業部でございます」
「店舗管理課の浅野です」
「お疲れ様です……」
まともに話をしたのは何日振りだろう。浅野さんの頬を平手で叩いたことすら謝罪していないままだ。
「足立さん……かな?」
「そうです……」
受話器を通して聞く彼の声はいつもより少しだけ幼くて優しく聞こえる。この声の主と先日私にセフレになってもいいと言った人が同じ人物とは思えない。
「ホワイトボードの僕の帰社予定が16時になってると思うんだけど、予定が変わって18時になるから」
「そうですか。じゃあ書き換えておきます」
「よろしく」
「それでは……」
「足立さん」
電話を切ろうとした私を浅野さんは止めた。
「優磨とは……」
「…………」
「…………」
言いかけて浅野さんは黙ってしまった。
私は優磨くんに告白されたことも、その気持ちに応えられなかったことも、もちろん浅野さんには伝えていない。優磨くんが浅野さんにどう言ったのかは把握していないけれど、きっと大体のことは知っているのかもしれない。
「仕事中なのでプライベートな話はまたの機会にお願いします」
「…………」
「他に何もないようなら切りますね。失礼します」
私は浅野さんの返事を待たずに受話器を強めに置いた。
我ながら冷たい対応だとは自覚している。けれど今浅野さんにどう接していいのか分からない。
立ち上がってホワイトボードの前に行くと浅野さんの名前の下の『16時』を消して『18時』と書いた。そして振り返ると私をじっと見つめる今江さんと目が合った。