きみの愛なら疑わない
「今日は予定変更で18時戻りだって」
浅野さんが帰ってくるのか気にしているのかと思って声をかけたけれど、今江さんは「そうですか」と言いつつも私から目を逸らさなかった。
「今江さん、どうかした?」
「いえ……」
そうしてやっとパソコンの画面を向いた。視線から解放された私は自分のデスクに戻った。
ああ、そうか。今江さんが不審な理由に心当たりがある。
レストラン事業部の中で密かにささやかれている噂があるからだろう。浅野さんと私は忘年会の後に二人でどこかに消えてしまったと。
噂の出所は熊田さんだろうとは想像がつくけれど、あの日私が期待した以上のことは何も起こっていない。今となっては酷い状態になってしまった。
こんな感じで浅野さんだって他の社員だって、本人のいないところで勝手に噂されて人間性を決めつけられているものなんだろう。
◇◇◇◇◇
残業する必要はないけれど定時を過ぎてもデスクに座って来週分の仕事にも手をつけていた。
これから優磨くんと映画に行くことになっていた。待ち合わせの時間がくるまでサービス残業をして時間を潰している。
優磨くんは浅野さんに私と映画に行くとだけ伝えて、告白してくれたことは内緒にしているのだと教えてくれた。
『俺と映画に行くのも作戦なんですよ! 慶太さんは俺と美紗さんが遊びに行くのを不安に思うはずです』
優磨くんはそう言っていたけれど、あの浅野さんが嫉妬するはずない。
そろそろ退社しようとExcelのデータを保存して、調べものをしていたネットのページをホーム画面に戻したとき、新着の芸能記事の見出しが目に入った。
その衝撃的な文章に驚いて、恐る恐るクリックして読んだ記事に鳥肌が立った。KILIN-ERRORのボーカルTAKUMIと、若手女優が熱愛中とのスクープ記事だった。