淋しがりやの心が泣いた
本編
「うぅ~~……」

 カウンターにうなだれながら突っ伏し、グラスの水滴をもてあそぶように、人差し指でテーブルに「の」の字を書く。
 私は仕事帰り、お気に入りのダイニングバーに来ていた。
 お洒落で雰囲気が落ち着いていて、私にとってはほっこりとした隠れ家的な場所だ。

「南ちゃん、だいぶ酔ったんじゃない?」

 声をかけてくれた優しい男性はここのマスターで、肌が浅黒くて黒髪にはくるくるとオシャレなパーマがかかっている。整えられたあご髭が凛々しい。
 テレビでよく見るダンスユニットにいそうな感じの人だ。
 名前は確か(あきら)だったかな。

「酔ってますよ。酔いたいから来てるんです!」

 体を起こして言いながら、目の前に残っていた紫キャベツと胡瓜のサラダをお箸でもそもそと口にした。

「だいたい、なんなのよあの男!! お金があるからって、ほいほい女を次から次へと誘って! そんな肉食男は絶対にあと十年もしたらハゲるんだから!」

「そうそう。そんな奴にはハゲの呪いをかけといてやれ~。あ、呪わなくてもハゲるんだったか」

 私が再び蒸し返した“この日の愚痴”にも、マスターは嫌な顔をすることなく付き合ってくれる。
 
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