淋しがりやの心が泣いた
 プリプリと軽く拗ねる央介くんをよそに、マスターはニヤニヤしながらそれを受け流す。
 兄が弟をからかうような、ここのこういう雰囲気も好きだ。

 そんなやり取りを見ていると、だんだんと全身の力が抜けて……
 赤ワインがおいしくて、どんどんお酒も進んだ。

 酔いがまわって、ふわふわと体が宇宙空間まで浮き上がってしまいそうな感覚になったかと思えば、今度は逆に鉛のように重たくなってきた。
 今は自分の手足がまったく思うように動いてくれない、という惨状だ。

「……ちゃん。南ちゃーーん。起きて?」

 耳の奥で央介くんの声がする。

「ほら、もう店終わりだから、帰るよ」

 ちゃんと聞こえているから、わかったと返事をしたいのだけれど。
 私の瞼は半分ほどしか開かない上、発した言葉は判別のつかないうやむやなものだった。
 要するに、完全につぶれたタチの悪い酔っぱらいの出来上がりだ。

「今日、歩くの無理そうっすよね」

「どうするんだ?」

< 8 / 42 >

この作品をシェア

pagetop