GREEN DAYS~緑の日々~
夏穂の家は南橋三丁目にあり、その名の通り南橋を渡った所にある。母親と姉の三人住まいで、父親は夏穂が小さな頃に出て行って以来それきりである。昔ながらの佇まい。
「ただいまー」
夏穂は家へ着くと声を張り上げて中に入った。母親の玲子が声をかける。
「お帰んなさい、暑かったでしょ」
「暑かった、暑かった」
夏穂はそう言いながら冷蔵庫の冷凍室から棒アイスを一本取り出し、口に頬張り、鞄を居間の畳の上に勢いよく投げ出したが、さっき洸に買って貰ったばかりの新しい水入れが入った包みだけはそおっと食卓の机の上に丁寧に置いた。
「もうすぐご飯だからアイスは一本だけよ」
「お姉ちゃんは?」
「今日はお教室でしょ」
夏穂の姉の瑞恵は市内の文化教室で生け花を教えていた。従って夏穂の家の玄関先や、居間の床の間には四季折々の美しい花が常時活けられている。玲子はさきほど夏穂が食卓の上に置いた包みに気がついた。
「あら、何買って来たの」
「水入れ」
「水入れ?、貴女持ってたでしょ」
「壊れた」
「あらまたー?、若い子はすぐ物を壊すんだから」
「壊したんじゃないの、壊されたの」
「誰に」
「それは秘密」
「まあどうでもいいけど着替えてらっしゃい。手を洗って、」
夏穂は棒アイスを口にくわえたまま、階段の方に向かった。同時に瑞恵が帰って来る。
「ただいまー」
玲子が気がつき声をかけた。
「あらどうしたの」
「うん、生徒さんが休みでね」
「あらそう」
「夏、ただいま」
夏穂は裏ピースサインを出した。
「あんた、アイスの汁が床に垂れてるわよ」
「げっ」
夏穂は慌てて二階に駆け上がった。
「だからいつも言ってるでしょ、立ったまま物食べちゃいけないって。もうー」
玲子は呆れ顔を見せた。瑞恵は笑いながら腰掛けた。
「暑かったでしょ」
「うん。夏穂は部活?」
「そうなのよ」
「夏休みなのに偉いわね」
「偉いのはいいけど、絵なんか物にならないのに」
「そんな事ないわよ、夏の絵、中々上手よ。だけどどうして水彩画なのかしら。本格的にやるのなら油絵やればいいのに」
「そうなのよ。油絵の絵の具、買ってあげるわよって言ったのに、いいって言うのよ」
「どうして?」
「油絵の絵の具は臭いから嫌なんですって」
瑞恵は苦笑しながら息をついた。
「ただいまー」
夏穂は家へ着くと声を張り上げて中に入った。母親の玲子が声をかける。
「お帰んなさい、暑かったでしょ」
「暑かった、暑かった」
夏穂はそう言いながら冷蔵庫の冷凍室から棒アイスを一本取り出し、口に頬張り、鞄を居間の畳の上に勢いよく投げ出したが、さっき洸に買って貰ったばかりの新しい水入れが入った包みだけはそおっと食卓の机の上に丁寧に置いた。
「もうすぐご飯だからアイスは一本だけよ」
「お姉ちゃんは?」
「今日はお教室でしょ」
夏穂の姉の瑞恵は市内の文化教室で生け花を教えていた。従って夏穂の家の玄関先や、居間の床の間には四季折々の美しい花が常時活けられている。玲子はさきほど夏穂が食卓の上に置いた包みに気がついた。
「あら、何買って来たの」
「水入れ」
「水入れ?、貴女持ってたでしょ」
「壊れた」
「あらまたー?、若い子はすぐ物を壊すんだから」
「壊したんじゃないの、壊されたの」
「誰に」
「それは秘密」
「まあどうでもいいけど着替えてらっしゃい。手を洗って、」
夏穂は棒アイスを口にくわえたまま、階段の方に向かった。同時に瑞恵が帰って来る。
「ただいまー」
玲子が気がつき声をかけた。
「あらどうしたの」
「うん、生徒さんが休みでね」
「あらそう」
「夏、ただいま」
夏穂は裏ピースサインを出した。
「あんた、アイスの汁が床に垂れてるわよ」
「げっ」
夏穂は慌てて二階に駆け上がった。
「だからいつも言ってるでしょ、立ったまま物食べちゃいけないって。もうー」
玲子は呆れ顔を見せた。瑞恵は笑いながら腰掛けた。
「暑かったでしょ」
「うん。夏穂は部活?」
「そうなのよ」
「夏休みなのに偉いわね」
「偉いのはいいけど、絵なんか物にならないのに」
「そんな事ないわよ、夏の絵、中々上手よ。だけどどうして水彩画なのかしら。本格的にやるのなら油絵やればいいのに」
「そうなのよ。油絵の絵の具、買ってあげるわよって言ったのに、いいって言うのよ」
「どうして?」
「油絵の絵の具は臭いから嫌なんですって」
瑞恵は苦笑しながら息をついた。