GREEN DAYS~緑の日々~
 二人はプールの側に行き、そこに揃って座りながらコーヒー牛乳を飲んだ。金網越しに水泳部員達の練習風景が見える。洸は息をついた。

「学校って暑いよなあ」

「どこでも暑いよ」

「夏休みでも結構生徒出て来てんだな」

「部活やってる人間だけだよ。ギター、上手いんだね」

「そうか?」

「ブラバンって、ギターもやるんだっけ?」

「いや、何かギター習いたいって生徒が多いらしくて。まあこれはアルバイトだから」

「本職は?」

「クラブで夜に一人で弾いてんだよ。後は時々だけど歌手の後ろで弾いたり」

夏穂は首を捻った。

「普通そっちがバイトじゃない?」

「価値観の違いだな」

「ふーん」

「あのさ」

「何」

「お前って何で冷めてんの」

「別に」

「笑った方が可愛いのによ」

「笑った顔なんて見た事ないくせに」

他人に言わせれば何て事の無い言葉かも知れない。だけど洸には夏穂のその言葉が深く胸に突き刺さった。

「田所―、もう一本」

目の前のプールで、水泳のコーチが国人に向かってそう叫んだ。国人はコースで右手を上げた。そして一瞬、夏穂の方をちらりと見た様な気がしたが、まるでそれが見間違いだったかの様にあっと言う間に水中に消えて行った。夏穂は口を尖らせた。

「知り合いか」

夏穂は何も答えず、そのままコーヒー牛乳を一気に飲み干し、スカートの裾を軽くパンパン、と払って立ち上がった。

「ごちそうサマンサ」

「どういたしまして」

「ねえ」

「ん?」

「この町の人間?」

洸は首を横に振った。

「じゃあどうしてこの町に来たの」

「この町が好きだから」

「どこが」

「どこも」

夏穂は首を竦めながら去って行った。洸は少し微笑みながら再び前を向いた。
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