GREEN DAYS~緑の日々~
 その日の帰り道、夏穂はいつもの様に校庭の駐輪場で自分の自転車を出し、跨るとペダルに足を掛けた。その瞬間、勢いよくチェーンが外れた。夏穂は口を尖らせた。

「おいどうした」

後ろから美術教師が声をかける。

「先生、自転車ぶっ壊れた」

「ああこれか。うーん、これ位だったら俺が直せん事もないけどな。だけど明日までかかるな」

「じゃあ今日あたしどうやって帰るんすか」

「歩いて帰れ、歩いて」

美術教師はそう言い残すと自転車を担いで去って行った。夏穂は「イケてねー」と小声で呟いた。その様子を後ろから見ていた国人が夏穂に声をかえようとした時、横から洸が現れた。

「どうしたんだよ」

「愛車ぶっ壊れた」

「愛車?ああ自転車か。送ってってやろうか。車だから」

「まじっすか」

夏穂は初めて笑った顔を見せた。洸は微笑んだ。そして夏穂に笑った方が可愛いって言ったろと言おうとしたが、そんな事を言ったら言った途端に夏穂にぶっ飛ばされそうなのでやめた。二人は校門を出た。国人は一人、自転車を勢いよく漕ぎ出した。



 夏穂は洸の車の助手席で一人ぶちぶち文句を言っていた。

「暑い!」

「文句言うんじゃねーよ、乗せて貰っといて」

「何でエアコンついてないの?、二十一世紀だよ?」

「何でエアコンに世紀が関係あんだよ。中古なんだから我慢しろよ」

「イケてねー」

夏穂は口を尖らせた。途中で花束を抱えた瑞恵を見つける。

「ちょっと停めて。おねえちゃーん」

「夏」

洸は車を停めた。

「どうしたの。あら、こちらは?」

「知り合い」

「知り合い?」

洸は肩を竦めた。

「夏穂さんの学校で講師を」

「あら、夏の学校の。お世話になります。夏、あんた自転車どうしたの」

「壊れた」

「またー?」

瑞恵は呆れ顔を見せた。

「おねえちゃんも乗って行きなよ」

「まだ買い出しあるから。じゃ」

洸は再び車を発進させた。

「美人でしょ」

「誰が」

「おねえちゃんだよ」

「ああ、そう言われてみれば少しそうかな」

夏穂は洸のその言葉に驚いた。今まで瑞恵を見た男は一目で瑞恵の事を好きになっていたからだ。夏穂は何だか嬉しい気分でいた。

「あ、ここでいい。そこだから」

洸が煙草を銜えた瞬間、夏穂ははっとした。

「ねえ」

「何だよ」

「ろくに道案内もしなかったのによくあたしん家わかったね」

洸は頭を掻いた。

「暫くいたら何となくわかるよ」

「ふーん。ありがと、じゃあねっ」

夏穂は車を飛び降りた。洸は車を走らせた。夏穂は玄関の所で再び首を捻った。

「そんなんであたしん家すぐわかんのかなあ…」



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