GREEN DAYS~緑の日々~
 その夜、瑞恵は学生時代の友人と会っていた。二人で町を歩く。

「でさ、そのクラブが凄く素敵なの。瑞恵も行こうよ」

「でもあたしそういうとこ苦手なのよ」

「行けば楽しいって。ねっ」

瑞恵は苦笑しながらクラブのドアを開けた。中は薄暗く、瑞恵は正面のステージに目をやった。そこには安っぽい赤い照明の下に洸がいた。

「あら…」

「知ってるの?」

「ちょっとね」

「始まるみたい。座ろ」

 やがてステージが始まり、洸のギターが店内に流れ始めた。伸び放題の手入れされてない髪、無精髭、よれた白いシャツ。だが洸は美しい。間違いなく美しい。瑞恵は夜の色に吸い込まれて行った。



「別な一面があるなんて、先生」

洸の演奏が終わった後、二人は別の小さなテーブルに腰掛けていた。

「夏、連れて来てあげれば良かったな」

「どうして」

「貴方の事、好きそうに見えたから」

「それはないですよ」

「あの子は、ああ見えても寂しがりだから」

洸は頷いた。

「見かけは無愛想だけどね、前はよく笑ってた。本当に笑ってた」

「今は」

「私達が悪いのよ」

「私達?」

「家庭環境」

「皆、色々ありますよ」

「優しいのね」

「あいつ…、夏穂さん、いつから絵を」

「さあ、中学位からだったかしら。どうして?」

「いや」

「絵も好きなの?描くの?」

洸は首を横に振った。

「うちに色々あったから」

「そう。貴方が好きだったの?」

「いや、うちの親父が好きだったから…」

外は雨が降り出していた。洸は窓の外の雨の滴を一粒見つめた。

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