鉢植右から3番目
母親は一人でいきなり戻ってきた娘に夜までぶつぶつ言ってたけど、無口な父親と二人なのは実際寂しかったらしく、夜ご飯は私の好物で溢れていた。
おお~!と嬉しく思って、手を叩く。こういうところが、母親だよなあ!素直にお帰りって喜べばいいのに~、などとうきうき食卓につく。
好物ばかりの食卓を両親と囲んで和やかに談笑し、テレビを見て和む。
その間一度だけ、ほったらかしてきた面倒臭がり屋のヤツのことを考えた。・・・ご飯、食べたかな。
でもヤツは、基本的には何でも出来る。実家暮らしだった割には家事全般が出来る。苦手だとは言っていたけど、便利な男なのだ。
だから繁忙期の彼を放置してきたことへのちょっとの罪悪感は、バラエティ番組の笑い声ですぐに飛ばされてしまったほどだった。
両親の家にいる間、ここぞとばかりに腰痛もちの母親にこき使われた私だった。廊下の電球替えから大きなものの買い物、世間話の相槌から祖母のお見舞いの付き添いまで。
偽装結婚で、しかも喧嘩したという秘密を抱えている私は下手に突っ込まれないようにと素直に同行し、お盆休みなのに結局バタバタと働いた。
その間、母が一度、埃だらけになって物置を掃除する私を振り返って言ったのだ。
「あんた、結婚指輪は?」
ううむ、来たか。どうしようかな~・・・母親に見えないように汗だくの眉間に皺を寄せて、一瞬考え込む。
だけども自分の母親だし、小さな嘘も積み上げるのに疲れたしな、と思って正直に答えた。
「まだ買ってない」
「え?」
案の定驚いた母親ににっこりと笑ってみせ、ここからは罪のない嘘を並べる。曰く、一度見に行ったけど気に入ったのがなく、結婚も忙しなかったから指輪だけは時間をかけて好きなものを選ぼうと二人で話し、それが長引いているのって。