鉢植右から3番目
それを聞いて嬉しそうにした母親の顔はちゃんと見れなかった。
・・・ああ。素敵な嘘。それが本当だったらどんなにいいか。
私は続けて愚痴で曖昧な表情を誤魔化した。
「友達やら職場やら皆に聞かれてちょっと面倒臭いわ。でもファッションリングだとやっぱり判っちゃうし、家事の邪魔だからって言ってるの」
すると母親はパッと笑顔になって、そうそう、それじゃあね、とバタバタ物置を出て行く。
うん?首を捻ってしばらく待ったけど戻ってこないので、物置の掃除を再開した。何とか片付けて、ふう、と息をついたところで、家の中から呼ぶ声が聞こえた。
「みやこー!」
・・・はいはい。次はなんですか。若干げんなりしながら戻ると、母親がニコニコしながら指輪を差し出した。
「・・・何、これ」
「何って、結婚指輪よ。お母さんのだけど」
「え?」
顔に汗を浮かべながらニコニコと微笑んで、母親は言った。
「最初の結婚指輪なの。それから指が太っちゃって、入らなくなったのよ。お父さんも同じくらいにやっぱり入らなくなったから、買いなおしたの。あんたが小学生くらいの時にね」
・・・へええ~・・・。そういえば、なーんとなく、見覚えあるかも・・・。
母親の手のひらでまだ幾ばくかの輝きを持って、私こそが結婚指輪である!と主張するように光るリングを見詰めた。
「今の都なら同じくらいのサイズだと思うの。周囲に聞かれるのが嫌なら当分これをしておきなさいよ。お父さんのも二つで、どうせ都に上げようと思ってたのよ。本当にお金に困った時には質屋に持っていけるくらいには高価なものだしって」