鉢植右から3番目
私はもう一度、そのリングをじっと見詰めた。
若い父と母が二人で選んで決めた指輪。まだそんなにお給料もない時に買い、大切にしていた指輪を。
「・・・貰って、いいの?」
母親はカラカラと笑った。
「うちの子はあんただけだしね。私達には今のがあるから」
私は手を洗うついでにもうシャワーにしようと全身を綺麗にして、それから母親にその結婚指輪を貰った。
夕食のときには父親も自分の分を出してきて、生前分与だな、と笑いながらくれた。
母親のそれは私の左手薬指にぴったりと嵌り、キラリと輝いた。
「うーん、その細さが羨ましいわ~!嬉しかったわねえ、それ初めてつけた時」
ふふふと笑いながら照れて、母親がベラベラ喋る。それを父親が隣で頷きながら聞いていた。
私に出来ることが、これを受け継ぐことならば。それで両親が喜んでくれるなら。そう思って、私も笑顔でお礼を言う。
父親の分を繊細な銀のチェーンに通してネックレスにする。これで、また結婚指輪はセットになった、と思った。
目の前でご飯を食べるこの二人が若い時、一緒に選んで嬉しく嵌めた指輪なんだな。それは文字通りに愛情の塊のように思えて、未だ一人の私の胸を締め付ける。
ああ、羨ましいな。心底そう思った。
私の左手薬指。いつかはって思ってたけど、いまだ嵌るリングはあらず。ほのかにでも好きな男も出来て、しかもその相手と結婚しているのに、一体どうしてよ。
無防備な私の指に、お守りだなって、その古くて細い両親の指輪を嵌めたのだ。
眠りに付くまで、指輪の嵌った指を見詰めていた。
―――――――・・・私は、一体どうしたいんだろうか・・・。