鉢植右から3番目
「・・・重い」
ぼそりと呟いたけど、これも親の愛だ、と更なる苦情を言うのは止めた。
そんなわけで、8月の下旬、私は実家を追い出され、とぼとぼと駅までの道を歩く。
ううーん・・・。どうしようっかなあ~。普通に帰れるだろうか。相手は忘れてるかもだけど、それにしたって連絡無しで8日間も帰宅せず、だったのだ。
相手からも一度もメールが来なかったところを見ると、よっぽど呆れたか、実は怒ってるか、もしかしたら契約解除になったつもりでいるのかも・・・。
うわあ~・・・私ったら。
一回くらいメールしておくべきだったかな、とずーんと凹んだ。
凹みすぎて少しよろける。夏の夕暮れ、まだ残る暑さにもうんざりして顔を上げたとき、あの素敵なカフェが目に入った。
「あ・・・」
・・・お茶、していこうかな。気分転換に。美形をみて、なんだったら今更だけどヤツにメールなんかしてみて。・・・晩ご飯、リクエストある?とかって。何でもなかった、みたいに。
自分に頷いた。よっしゃ、それでいこう!ナイスアイディア!
ちょっと笑顔が復活した状態で、角に見えるカフェに向かって歩き出したら、呼び声が耳を掠った。
「―――――――・・・田。兼田!かーねーだ!」
へ?と思って振り返る。私の事?
ようやく色んな場面で漆原さんと呼ばれるのに慣れてきたところだった。旧姓で呼ばれて反応が遅れ、走ってきたらしい相手が追いついた。
「あら、坂田君」
人波をすり抜けて笑顔でこっちにやってくるのは、辞めた会社の元同僚、坂田利之だった。