鉢植右から3番目
総務に所属していた私と営業部の彼とは出張の手配や有給の手続きでやり取りが多く、歳も近かったことから顔見知りになったのも早かった。
退職前は、たまに飲みに行ったりもしていた。
最後に会ったのは、不倫していた上司の妻が会社中にその事実をばらし、その件で社長に呼ばれて乗ったエレベーターの中だった。
あの時の彼は、当然だけど気まずそうに視線を逸らし、大変だな、とかなんとかもごもごと口の中で言った。
会社中で軽蔑の上後ろ指をさされ笑いものになっていた私は既に満身創痍だったけど、気安くしていた同僚の彼からの視線が厳しく蔑んだようなものではなかったので、そのことに思わず泣きそうになったんだった。
「・・・行き着くところまで行ったの。不倫をしてた女への罰なのよね、これが」
そう自虐的に呟くと、確か彼は言ったのだ。真っ直ぐに私を見て。
お前だけが悪いんじゃないんだ、だからビクビクせずに立ち向かえって。俺は軽蔑したりしないって。
驚いたけど、嬉しかった。お陰でその後トイレで泣いた。言葉が沁み込んで、最後の防御が崩れた感じだった。
軽蔑されても仕方ないことだった。だけど私が置かれている状況に対して、フェアじゃないって言いたかったんだと判った。どうしてお前の横にあの男はいないんだって。お前一人の責任じゃねえだろって。
だから言う通り、立ち向かったのだ。
時間には遅れていたけど化粧をちゃんと直して、副社長の部屋へ向かった。そして辞表を提出し、お世話になりました、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんと頭を下げた。
直属の上司と副社長のいる前では一度も泣かなかった。それは、坂田君から貰った言葉のお陰だと思った。