鉢植右から3番目


 ヤツは、へえ、と言っただけだった。既に興味がなさそうだ。

「生前贈与だってさ。金に困ったら質入しろだって」

 その台詞にはちょっとだけだけど、笑っていた。ところで、と私は声の調子を変えてやつをじっとりと睨む。

「大家さんに、鉢植の世話をする人間が留守にするって言ったって?」

「うん」

「あのねえ、一応新婚でここに入ってるってことになってるんでしょ?世話する人間って言い方があるかいなっ!!」

 変な夫婦だと思ったことだろう、あの大家さんも。ま、実際変な夫婦なんだけど。

「・・・日本語としては正しい」

「妻とか嫁とか言い方あるでしょうが!」

「嫁は正しくない。俺にはまだ息子はいない」

「揚げ足取ってんじゃねえええ~!!!」

 このバカ野郎~!さっきゴミ箱に捨てた期限切れの牛乳をなげたろか!・・・・いや、冷静になれ、私。きっと、そんなことをしてもヤツは怒りもしないで淡々と風呂に入りそうだ。片付けるのは、私。いかんいかん。

 見せつけのように大きく、ゆっくりと呼吸をした。

 もう、話にはなりゃしねーよ。


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