鉢植右から3番目
3、鉢植右から3番目の宝物。
8月が終わろうとしていた。
何となく、空は高くなり、朝晩の風が涼しくなってきた。
その風を顔に受けながら、食材の買出しに来ていた。ヤツも一緒にだ。
実家から戻ったその日の晩、結局なんだかんだと言っても私はこの面倒臭がり屋を気に入っているんだな、と再認識してしまったのだった。
私の不在を何とも思ってなかったようなのにはガッカリしたけど、指輪に気付き、どうするのかと聞かれたこと。そして初めて名前を呼ばれたこと。
そのどっちもが、ふんわりと、じわじわと嬉しかったのだ。
その感情を素直に受け入れようと決めた。
それからは敢えて同居人だとは思わずに、結婚相手として振舞おうと一大決心したのだった。本当に一大決心。もうヤツからなんて待たない。気が遠くなりそうだ、ヤツから何かしてもらおうと思ったら。
だから食材も仕事帰りにちょこちょこ買うのでなく、休日に一緒に買出しにいくことにしたのだ。そしたら相手の好みも判るかもって。会話も増えるかもって。
休日は今まで別々に気ままに過ごしてきたけど、やつも私も大して趣味があるわけでもなく、ダラダラのんびりと家で過ごしていたのだから、買い物について来てと言ったって、面倒臭い以外の断りはないだろうと踏んだのだ。
そして意外なことに、ヤツは面倒臭いとは言わなかった。ただ、うん、と頷いて後ろをだらだらと着いてきたのだ。
私は嬉しくて、色々買い込んでしまった。
先週はそうして舞い上がったけど、今週はもう一段階進みだいぞ、と企んでいた。
ありがとうございましたーの声を背中に聞きながら、一緒に並んでスーパーから出る。