鉢植右から3番目


 いつもの足音がドアの前まで続いてきて、やがてガチャリと音がした。

 私はそれをヤツの部屋のヤツのベッドの中で聞いていた。

 うっすらと目を開ける。

 夕方から、ここで眠ってしまったんだ。ついここに寝転んだら、ヤツの香りに包まれて、そのままうとうとしちゃってた。妙に安心する香りだった。

 香りの主が帰ってきたんだな、今、何時なんだろ・・・。動くのが億劫で、もうそのままでまた目を閉じてじっとしていた。

 玄関から居間へのドアが開いて、足音が止まった。

 ドアが開いている自分の部屋に気付いたのだろう。

 どくん、と私の鼓動が耳の中で跳ねた。

 タオルケットの下、胸の前で握り締める両手。その左手薬指には彼から貰った指輪。

 シンプルなシルバーのリングには幅の狭い線でゴールドが走り、内側にはピンクダイヤが嵌めてあった。

 紛れもなく、結婚指輪だった。

 ドサっと荷物を置く音。そして足音はこの部屋の入口へ。ヤツは真っ暗のままの部屋の中へ進み、ベッド横のサイドランプをつけた。

「都」

 声に、ゆっくりと目を開けた。

 私は横向きから仰向きになって、目をこする。

「・・・お帰り」

「うん」

「お腹、空いた?」


< 129 / 143 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop