鉢植右から3番目
おまけ。「坂田利之の安堵」
坂田利之 33歳 AO機器会社営業課主任
「鉢植右から3番目」のヒロイン兼田(漆原)都の元同僚。
都とはたまに飲みに行くような気軽に付き合える仲だった。
久しぶりに再会した都にアプローチをかけるが断られる。
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真夏の夕方、人ごみで目が回るような駅前で、俺は懐かしい顔を見つけて立ち止まる。後ろから歩いてきたサラリーマンが急に立ち止まった俺の背中にぶつかって、イライラと舌打をした。それにすみませんと謝って、急いで体の向きを変えた。
「兼田!」
声をあげるけど、相手には聞こえてないようだった。えらく大きな紙袋を足元において、交差点で何かを考えているようだ。
「かーねーだ!」
もう一度叫ぶ。その間にも目的の相手に近づきつつあった。
怪訝な顔して振り返る。そして、あら、と口が動くのを見た。
俺は自分が笑顔になるのが判った。
さっきまでの鬱々とした気分は、かなり久しぶりに会った元同僚の彼女との再会で吹っ飛んだみたいだった。
「あら、坂田君」
にこりと微笑んだその笑顔は3年前より確実に柔らかさを増している。
夏の夕方人波の中で、俺は突然奇妙な感覚に捉われる。
そして一気に、色んなことを思い出した。