鉢植右から3番目
当時兼田と不倫関係にあった部長のその後を話すかは迷った。
だけども会社の誰かと連絡を取っている様子はなかったし、知りたいかと思って話すと、そう、と簡単に頷いてもう興味がなさそうな顔をしていた。
驚いていると、ぽつりと呟く。
「・・・実際のところ、今は彼の元奥さんにしか申し訳ないとは思わないわ」
「そりゃあそうだろうな。あの人も会社を辞めるんだって思ってたけど、残った。それが凄いなって皆言ってた」
部長のその後は皆気にしていた。だけれども一事務の女性社員と違って将来を有望視された出世株だし、まさか首にはならないだろうって。
最初こそ悪い顔色で出勤してやたらと出張ばかりしていたけど、その内普通に戻ったと俺はムカついていた。
だけどある日社内メールで匿名の情報が流れて少しだけ、胸がすいたんだ。
それは部長の離婚を知らせるメールだった。
ちょっと、ざまあみろって思ったやつは沢山いたと思う。部長の奥さんはいい所の、社長とも付き合いのある人のお嬢さんで、それが原因となってやっぱり僻地への移動になった。
送別会は開かれなかった。あったとしても俺は行かなかったと思うけど。
でも今前に座る彼女が、吹っ切れたような、淡々とした表情だったから、ちょっと後悔した。
・・・余計なこと言ったかもって。今が、楽しく暮らしているなら必要ない情報だったかなって。
だからもう過去はいいやって今の話に戻した。
何してんの?と聞くと、明るく笑って言った。
「歯医者の受付してるよ~。狭い世界だけど、あれはあれで楽しい」
俺も力を抜いて話をする。出来るだけ、会社の話はしないようにした。