鉢植右から3番目
暗い影のなくなった笑顔で彼女は笑っていた。それが安心の元だと判っていた。
・・・ああ、そうか。ちゃんと彼女を愛して、大切にしてくれる男とめぐり合ったんだな、って。
振られたばかりだというのに、俺は嬉しくて笑う。
「そうね」
彼女も頷く。
「判った。じゃあ諦めるよ。でも今日は、会えてよかった」
ふ、と息が漏れる。・・・会えて、よかった。
彼女は見送ってくれるようだった。
だから俺は重い鞄を持ち直して駅に向かった。
これから帰社して、それから書類の作り直しできっと終電だろう。だけど何だか爽やかな気分になっていた。
あのムカつく課長の顔を見ても、ちゃんとした顔で報告出来そうだ。これも全部、兼田の――――――あ、結婚したんだっけ、何て名前って言ってたかな。・・・ま、いっか。これも全部、彼女のお陰だ。
電車に乗ったときに判った。
俺が気に入っていたのは、これだって。
彼女は不倫をしている時も、それがバレた時も、一切の言い訳をしなかった。すくなくとも俺にはしなかった。
それって結構凄いことなんじゃないかな。
心が弱る恋をしていて、人にそれを零さないなんて・・・俺にはきっと出来ないだろう。
やっと薄暗くなってきた外を窓から見詰める。
会えて良かった―――――――本当に。
おまけ、終わり。