鉢植右から3番目


「それで?」

 私はうんざりしながら顔の前でボールペンをくるくると回す。

 机を挟んで私の前に座った男はそれをチラリと見て、同じようにうんざりした顔でため息をつきながら言った。

「ここに名前。生年月日、本籍地。――――――へえ、夏生まれなんだな」

 私は言われた通りに書き込みながら、そう、と頷く。

「8月の1日生まれなの。・・・ちなみに、漆原君は?」

「俺は10月10日。昔の体育の日だ。漆原君、はもうおかしいだろう。自分だって漆原になるんだから」

 私はまた重いため息をついた。

 そうなのだ。お互いの誕生日すら今日初めて知った私達は、今書いている結婚届けを役所に突っ込めば、戸籍上、法律上は夫婦となる。

 だるい、が口癖のやたらとやる気のない彼と、20代後半からの6年間でネガティブ女子になってしまった私は一緒にだらだらと書類を書いているところだった。

 顔をあげて、私は自分の夫となる予定の男に聞く。

「――――――・・・ねえ、本当にいいの?」

 目の玉だけ動かして私を見た後、ヤツは黙って頷いた。

 お互いの利益が見事に一致したのだ。だから、私も納得した。最後の砦である判子を握り締めて、私はじっと契約書である結婚届けを見詰める。

 一言で言えば、こんなはずじゃあなかった。

 小さい頃から思い描いていた結婚なるものは!


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