鉢植右から3番目
私はこの日、バイトの居酒屋以外は外出しなければ良かったのだ。そしたら話には乗らない結果になったかもしれない。だけども、まさか一日の間にそんな目に会うとは思わずに、果敢にも久しぶりにと美容院、そのあとには日用品の買出しなんてものに行ってしまった。
その結果、何と例の疑問文を合計4回も聞くことになってしまった。
1回でもと思ってたのに、4回だぜ4回!!有り得ない。最後の一人は居酒屋に来たお客さんで、酔っ払った赤ら顔で私を指差し、店の大将に「この娘さん未婚なの?」と聞いた上で私を振り返り、「おっちゃんが貰ってやろうか?」とのたもうたのだ。
予約席の準備をしていた私は丁度もっていた箸を握り折ってしまった。
バキッと凄い音がして、方々から視線が突き刺さる。生中をもったまま固まる学生諸君に口をあけてぽかんと私を見る酔っ払い。普段大人しい私の突然のぶち切れを見た大将は元々大きな目を落ちそうなくらい見開いていた。
私はおほほと軽やかに笑って、カウンター越しに折ったお箸をゴミ箱に投げ入れる。
勿論普段はそんなことはしない。一種の、パフォーマンスだ。
「えらく華奢なお箸なんですねー、店長」
完全な笑顔で大将を見ると、彼は引きつったままで恐る恐る、みっちゃん手は大丈夫だった?と聞いた。
「・・・あの・・・お姉ちゃん、ごめんね」
自分がこの平和な居酒屋に真冬の空気を生み出してしまったと気付いた酔っ払いが、おずおずと私に声をかける。
私は新しく出したお箸を並べながら、また笑った。
「いいええ、大丈夫ですよ。慣れてますからあ~。本日、あんたは独身なんだな、可哀想にな、て解釈できる言葉を投げかけられたのはこれで4回目ですから~」
その一言で更にその場の空気が冷えた。