鉢植右から3番目


 損得抜きの大恋愛の上、いざとなれば親子の縁を切ってでも愛する彼と手に手を取って逃避行―――――――そして死が二人を分かつまで・・・となる筈だったのだ。

 だけど現実は!

 損得絡みまくった、世間体も親の事情もお互いの事情も絡めまくった、実に夢のない結婚を、しようとしている。

 紙一枚で。

 ドレスもケーキも祝福もバージンロードも全部すっ飛ばして、役所に受理された後はファイルに閉じられて暗闇に仕舞われる紙一枚で。

 判子を握り締めたまま固まってしまった私を面倒臭そうに見て、やつが前から言った。

「やっぱり止めるのか?どっちでもいいから早く決めてくれ」

 私はきっと相手を睨んだ。

 人事みたいに言うなっつーの!お前だって今人生の節目なんだからな!

「止めないわよ」

 ぐっと無駄に力を入れて捺印する。

 正社員の時事務職であった私は3億円の契約書の判子を押すときだってこんなに緊張しなかった。

 ま、別にあれは自分の人生はかかってなかったけど。

 若干手が震えかけたのを根性で無視して、無事、判子はハッキリと紙に朱をうつした。

「・・・出来た」

 書類に不備がないかを淡々と確認して、ヤツ、大地は立ち上がった。

「よし、出しに行くぞ。もう面倒臭いから早くしようぜ」

 だるそうに動き、面倒臭いが口癖の男を蹴っ飛ばしてやりたい。だけども新婚早々DV妻になるわけにはいかないよね。例え、仮面夫婦だとしても。


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