鉢植右から3番目
車は暫く使っていいわよ~と玄関先で手を振る母親にお尻を向けて、アパートまで驀進した。
そこまでで夕方の4時。
部屋に入ると疲れがどっと出たけど、明日はバイトもあるしと気力を振り絞る。5往復くらいして車から荷物を降ろし、自分のものは部屋に突っ込んで、台所と洗面所を使えるように改良した。
漆原大地に提出した「同居の決まりごと」に、自分で書いたのだ。
正社員でない私が、基本的には食事を作る、と。つまり、台所は私の天下。隅から隅まで私好みにして問題なし。
仕事に関して相談したら、俺は気にしないから好きにしたらと言ったので、歯医者の受付のアルバイトのみにして夜の居酒屋は辞め、扶養に入れてもらうことにしたのだ。ヤツが興味なさそうに私に出した給料明細の額から考えて、私が扶養に入る方が税金面で得をする。
その時はびっくりしたけど、後で冷静に考えたら新卒からまともに正社員で働いている男性で32歳なのだから、妥当と言えば妥当な年収だった。だけどもここ2年フリーターでワーキングプア特集を組めそうな私にしてみたら、「おめえ、稼げるんだな・・・」と羨んでしまう金額だったのである。
が、あくまでも同居だと思うのなら私も仕事はせねば。パートといえども、これから何が起こるか判らないから、パートで働きながら正社員を探すのだ。
いつでも契約解除を申し出る権利は、こっちと同様にヤツにもある。その時シングルに戻って路頭に迷わないようにはせねば、と思ったのだった。
愛のない結婚、とヤツは言ったのだ。利害が一致したから話にのるんだと。私からそこに甘んじるのは、少なくなったとはいえ存在するプライドが許さない。
ヤツがある日契約解除を申し出ても、にっこり笑って離婚届をかける女でいたい。
それくらいの余裕はヤツに対して持っていたい。