鉢植右から3番目
ヤツは意見も文句もなかったから、ご飯も一緒に食べられるときは一緒に食べ、それ以外は友達と外食したり、一人で気ままに食べたりしていた。
両家の親戚筋からはお祝いが届いたりして気を遣ったけど、それは両方の母親が一緒に対処をしてくれたし、友達や知人には別に結婚そのものを知らせなかった。
必要がなくて。
写真も撮ってないから、結婚しました葉書を敢えて送るのもどうだかな~と思ったのもあるし、ただ単に、いつまで続くか判らないから、というのもあった。
ゴールデンウィークも目前の頃、私は平穏な毎日に浸りきった状態で、アパートの郵便受けを開けたのだ。
「おっと・・・」
新聞の間から葉書が一枚零れ落ちて、足元を滑る。
屈んで指で拾い上げたら、漆原の名前がつく男性の方からの、法事の案内だった。
「・・・法事」
人事みたいに思っただけだった。その時は。ヤツも大変ね~、せっかくの連休に法事なんてね~って。ゴールデンウィーク後の日曜日だった。
私は、形の上では夫婦なんだってことを完全に忘れていたのだ。だから、漆原家の法事には勿論私も出なくてはならないってことが、頭から抜けていた。
その余りにも当たり前の事実が頭の中を駆け巡ったのは、ヤツの母親から電話があったからだ。
『都ちゃーん、元気~?』
うちの母親の学生時代の親友である漆原冴子さんの華やかな声が聞こえて、私は電話で笑ってしまう。